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2008年7月

2008/07/28

『赤い風船』 ~時をへて甦る私自身~

1956年/フランス/36分(2008年デジタルリマスター)
監督・脚本:アルベール・ラモリス
撮影:エドモン・セシャン
音楽:モーリス・ルルー
出演:
パスカル・ラモリス
サビーヌ・ラモリス


ずっと昔,私がまだ小学低学年のころ,町の児童会館では,時おり子ども向け映画の上映会がありました。

東映動画の『空飛ぶゆうれい船』などがよくかかっており,公開から数年の旧作がかかることが多かったようです。

時おり,特撮モノで観たことのない作品が上映され,それがしばらくしてから,テレビで新番組として放映されることがあって,子ども心に一体どういうカラクリになっているのだか不思議に思った記憶があります。


そして,そんな中に混じって,少年と赤い風船の触れ合いを描いたシュールな外国映画の短編がありました。

2~3回は観たと思いますが,観るたびに惹きこまれ,強く印象に残る映画でした。ただ幼かったため,どこの国の何という作品なのかも知らないまま,長らく記憶の片隅にしまい込まれていたのでした。

歳月が流れ,黒澤明が亡くなった頃のこと。ある雑誌で「黒澤明が選んだ100本の映画」という特集があり,中にアルベール・ラモリスの『素晴らしい風船旅行』(1960)という作品が挙げられているのを見て,なぜか,あの少年と風船の物語が記憶の奥底から呼び覚まされました。

そして,さらに10年たった今夏,ラモリスの短編『赤い風船』(1956)が,同監督の『白い馬』(1953)とのカップリングで,デジタルリマスター版としてリバイバルされたのです。

まぎれもなく,幼い頃に観て心に残っていたあの作品・・ さっそく,梅田ガーデンシネマへ出かけました。じつに37~8年ぶりの再会であります。

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この作品は,一篇の映像詩とでも言うべきもので,有り体に分類してしまうと,「ファンタジー」ということになるのでしょう。

少年はある日,街角で赤い風船見つけ,それを持って歩くうち,風船が意思と魂を持つかのように動き出し,まるで仲の良いペットか,友だちのように,少年に寄り添うようになります。


風船をそれらしく生きているように撮るテクニックが素晴らしいですね。少年と戯れるシーンには,ある種の肌合いが感じられて,本当に対話をしているような錯覚を覚えます。トリック撮影もこういうのは良いですね。

一方,セリフが入るのはほんの数ヶ所で,ナレーションや字幕も一切入れず,ただ映像の流れだけで物語を綴っていきます。これは物言わぬ風船と人間を同じ次元で並置するためには,重要な手法だったのでしょう。


何より,パリの街角のロケーションによる撮影は秀逸。古ぼけたセピアや灰色の街並みに,テクニカラーによる風船の鮮やかな「赤」の発色が際立って見事でした。

全編をほぼ屋外シーンだけでつなぎ,徹底的にオープンエアに拘ったのは,やはり「風船の物語」の故でしょうか。

この拘りが空気の抜けの良い画面をつくり出し,短編として重要な,映像の一貫性につながったように思います。ヘタに室内シーンなど入れると,ダルくなってダメでしょうね。


少年と風船のホノボノとした触れ合いの優しさ,悪童たちとの追いかけっこのモーションリズム,そしてあのシュールなラストシーンの何ともいない幸福感。

わずか30分余りのなかで,豊かな詩情をたたえながら,モーションピクチャーの真髄を見せてくれる・・ 小品ですが,まさに得がたい逸品であります。


まあ,あまり理屈っぽいことは言わず,子どものような素直な心で,ただ感じるままに観るのが最良でしょう。

私自身が,主人公の少年とさして違わない年ごろに観て感銘を受け,40年近くたった今,再び観る機会を得て・・

気がつけば,スクリーンの少年に,その頃の自分自身を投影していた・・ そんな不思議な再会でありました。


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2008/07/19

『リリー・マルレーン』 ~攻撃的につくり込んだ映画~

1981年/西ドイツ/120分
監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
原作:ララ・アンデルセン
脚本:マンフレッド・プルツァー,ジョシュア・シンクレア
撮影:ザヴィエ・ショワルツェンベルガー
出演:
ハンナ・シグラ
ジャンカルロ・ジャンニーニ
メル・ファーラー
クリスティーネ・カウフマン


シネ・ヌーヴォの「ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー映画祭」で観た1本で,彼の映画としては比較的よく知られている作品だと思います。


ナチス独裁下のドイツで,戦意高揚の手先に利用され「リリーマルレーン」を歌った歌手ビリー(ハンナ・シグラ)と,ユダヤ人解放組織のリーダーを父に持つロバート(ジャンカルロ・ジャンニーニ)の結ばれえぬ悲恋のストーリー・・

なんて書くと,哀しい反戦映画のようですが,国家の「戦争」を正面から批判するといった類ではありません。

表面上は,時代に翻弄される男女のメロドラマの体裁をとりながら,終始,あの「戦争」のバカバカしさを,裏からシニカルに描き出すといった趣向。

敵味方入り乱れたスパイ合戦や,ナチスとユダヤ組織の裏取り引きなど,ドイツ近代史の暗部をえぐり出しながら・・

ナチスものとしては,ユダヤ人の描き方が独特で,「被害者」としての民衆はどこにもおらず,スイスに住むユダヤ組織のリーダーは大変な金持ちで,腹黒い策略家のイメージ。

「私はただ歌っているだけ」というシグラ演ずるビリーだけが,人として素直で純真な存在という感じがします。

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ともかく,映像と音響の洪水によって攻撃を仕掛けてくるタイプの作品で,ハンナ・シグラが歌う,気だるく甘ったるい「リリーマルレーン」を全編に流しながら,あえてアザトくつくり込んだ印象があります。 

まずもって映像処理が攻撃的で,短いショットを目まぐるしく切り替え,非常にテンポが速く,シーンごとの余韻など切り捨てるかのように,どんどんせっかちに先へ先へと進んでいきます。

こういう作品を,理屈っぽい字幕を読みながら観るのは,かなりツラくて,途中から字幕を斜め読みにしたので,話の展開がやや怪しくなってしまいました。


序盤から中盤まではズームアップ(あるいはトラックアップ)を多用しながら,そこに心情的BGMを絡ませるのですが・・

音響処理に相当拘っており,目まぐるしい心情の変転を象徴するかのように,焦りや不安をかき立てる音楽と,心の和みを表す音楽をコロコロと切り替え,その変化の激しさは,どこか戯画的ですらあります。

そのほか,男女のロマンス場面は,回想シーンでもないのにフィルターをかけたシーンが多く,また,謎や秘密を匂わせる場面では,ガラス越しに眺める客観ショットを多用したり,ベッドシーンでは,極端なクロースアップで汗まみれの肌とそれを撫でる手ばかりを追ったり・・

特に,シグラがリリーマルレーンを歌う場面は,豪華な舞台で歌うシグラと,戦場での爆撃で死んでいく兵士たちを,速いモンタージュでつないで見せる・・ 


全体に,ちょっと過剰につくり過ぎて浮ついた感じはありますが,そんななか,ハンナ・シグラの表情と演技が不自然なほど抑えたクールな演出で,奇妙な和音を奏でています。

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それにしても,ハンナ・シグラって,大して美人でもない(失礼!)のに,こんなに魅力的に見える作品は初めてでした。

同時期のゴダールの『パッション』(1982年)では,もっと老けたオバサンの感じが強いし,ヴェンダースの『まわり道』(1975年)では,生硬な印象で,ぜんぜん良さが出ていない。

それに比べると,この作品のシグラはずっと良くて,観終わったあとに余韻を引きずるほど。

もともとファスビンダーが女優にしてしまったような人らしく,その魅力を隅から隅までよく理解していたのでしょうね。


他のキャストもけっこう渋くて,ロバート役のジャンカルロ・ジャンニーニはともかく,その父親のユダヤの富豪役,どこかで見たことがあるな,と思っていたら・・

エンドロールに「メル・ファーラー」とクレジットされ,アアッそうか!と思いました。

たしか,ついこの間,亡くなったところのはずですね。かつてはニヒルな敵役の多い人で,オードリー・ヘプバーンの元夫でもありますが,1980年だとさすがに歳とったな~という印象。

その他,地下組織の工作員としてウド・キアが出てました。70年代にはユーロトラッシュ系の怪奇俳優のイメージが強かった人で,このへんもマニアックな配役ですね。


おっと長くなり過ぎましたね。
こういう作品は書きたいことが多くてついつい・・(^^;
取りあえず今日はこのへんで。


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2008/07/05

夏の特集上映 ~ファスビンダー&ダブル市川~

さて,いつの間にか7月になってしまいました。いよいよ夏ですね~。

日本一暑い大阪の夏・・しばらく東京地方に住んでいた身にはかなり堪えます。

あの連日の灼熱地獄と熱帯夜を思うと,ホント今から思いやられますが,暑気払い(どこがや?)に,今夏,関西地区で予定されている旧作の企画上映について,サラッと眺めてみましょう。


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まずは,来週からシネ・ヌーヴォで始まる「ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー映画祭2008」

私はあまり知らない60~70年代作家ですが,その時代,ニュー・ジャーマン・シネマのホープと呼ばれていたファスビンダー。

早世(37歳没)だったわりに,40本以上撮っているというのは意外ですね。『マリア・ブラウンの結婚』や『リリー・マルレーン』などは有名ですが,そんなに知られていない映画作家ではないかと思います。

今回の特集では,17本+α(後年のドキュメンタリー)のセレクト。上映期間は7月12日(土)~18日(金)の一週間のみ。→公式サイト

もうちょっとスケジュール工夫してもらえませんかねぇ。ウィークデーの昼間なんて,ふつう観に行けないですから・・

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同じくシネ・ヌーヴォでは,いよいよ来たか!という感じで,8月2日(土)から「追悼特集 映画監督・市川崑」が始まります。

こちらは8週間に渡り60作品を上映という大特集。日本映画最盛期からの巨匠で,今年亡くなるまで現役監督だったですから,扱いも格別ですね。

一貫して商業娯楽映画を撮り続けながら,ゲージュツ家然とした作家たちが足元にも及ばない足跡を残してきた,日本映画史上屈指の才人であります。

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「市川ツナガリ」というわけではありませんが・・ 京都みなみ会館では,7月15日(火)から,恒例の「市川雷蔵映画祭2008」が始まります。

毎年,雷蔵忌の7月17日のころに開催されるこの映画祭ですが,今回は,昨年末に亡くなった田中徳三監督の追悼を兼ねて,7月31日までの延長版になるようです。

田中徳三監督・雷蔵主演の10本と,田中助監督作2本,その他3本の計15本を上映。

雷蔵主演モノですから,もちろん大半は肩の凝らない娯楽時代劇ですが,なかに,市川崑の『炎上』,溝口健二の『新・平家物語』などもラインナップされています。

ここのプログラムは,平日から始めて,週末を2回挟むというのが良心的で,好感がもてますね。

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さて,ホントに歳とともに夏を乗り越えるのがツラクなって来ていますが,たまには涼しいところで映画でも観ながら,今年もめげずに頑張りたいと思います。

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