『赤い風船』 ~時をへて甦る私自身~
1956年/フランス/36分(2008年デジタルリマスター)
監督・脚本:アルベール・ラモリス
撮影:エドモン・セシャン
音楽:モーリス・ルルー
出演:
パスカル・ラモリス
サビーヌ・ラモリス
ずっと昔,私がまだ小学低学年のころ,町の児童会館では,時おり子ども向け映画の上映会がありました。
東映動画の『空飛ぶゆうれい船』などがよくかかっており,公開から数年の旧作がかかることが多かったようです。
時おり,特撮モノで観たことのない作品が上映され,それがしばらくしてから,テレビで新番組として放映されることがあって,子ども心に一体どういうカラクリになっているのだか不思議に思った記憶があります。
そして,そんな中に混じって,少年と赤い風船の触れ合いを描いたシュールな外国映画の短編がありました。
2~3回は観たと思いますが,観るたびに惹きこまれ,強く印象に残る映画でした。ただ幼かったため,どこの国の何という作品なのかも知らないまま,長らく記憶の片隅にしまい込まれていたのでした。
歳月が流れ,黒澤明が亡くなった頃のこと。ある雑誌で「黒澤明が選んだ100本の映画」という特集があり,中にアルベール・ラモリスの『素晴らしい風船旅行』(1960)という作品が挙げられているのを見て,なぜか,あの少年と風船の物語が記憶の奥底から呼び覚まされました。
そして,さらに10年たった今夏,ラモリスの短編『赤い風船』(1956)が,同監督の『白い馬』(1953)とのカップリングで,デジタルリマスター版としてリバイバルされたのです。
まぎれもなく,幼い頃に観て心に残っていたあの作品・・ さっそく,梅田ガーデンシネマへ出かけました。じつに37~8年ぶりの再会であります。
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この作品は,一篇の映像詩とでも言うべきもので,有り体に分類してしまうと,「ファンタジー」ということになるのでしょう。
少年はある日,街角で赤い風船見つけ,それを持って歩くうち,風船が意思と魂を持つかのように動き出し,まるで仲の良いペットか,友だちのように,少年に寄り添うようになります。
風船をそれらしく生きているように撮るテクニックが素晴らしいですね。少年と戯れるシーンには,ある種の肌合いが感じられて,本当に対話をしているような錯覚を覚えます。トリック撮影もこういうのは良いですね。
一方,セリフが入るのはほんの数ヶ所で,ナレーションや字幕も一切入れず,ただ映像の流れだけで物語を綴っていきます。これは物言わぬ風船と人間を同じ次元で並置するためには,重要な手法だったのでしょう。
何より,パリの街角のロケーションによる撮影は秀逸。古ぼけたセピアや灰色の街並みに,テクニカラーによる風船の鮮やかな「赤」の発色が際立って見事でした。
全編をほぼ屋外シーンだけでつなぎ,徹底的にオープンエアに拘ったのは,やはり「風船の物語」の故でしょうか。
この拘りが空気の抜けの良い画面をつくり出し,短編として重要な,映像の一貫性につながったように思います。ヘタに室内シーンなど入れると,ダルくなってダメでしょうね。
少年と風船のホノボノとした触れ合いの優しさ,悪童たちとの追いかけっこのモーションリズム,そしてあのシュールなラストシーンの何ともいない幸福感。
わずか30分余りのなかで,豊かな詩情をたたえながら,モーションピクチャーの真髄を見せてくれる・・ 小品ですが,まさに得がたい逸品であります。
まあ,あまり理屈っぽいことは言わず,子どものような素直な心で,ただ感じるままに観るのが最良でしょう。
私自身が,主人公の少年とさして違わない年ごろに観て感銘を受け,40年近くたった今,再び観る機会を得て・・
気がつけば,スクリーンの少年に,その頃の自分自身を投影していた・・ そんな不思議な再会でありました。
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