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2008/06/21

『靖国 YASUKUNI』 ~いまなぜ「靖国」なのか?~

2007年/日本・中国/123分
監督:李纓(リ・イン)
製作総指揮:張雲暉,張会軍,胡雲
製作:張会軍,胡雲,蒋選斌,李纓
撮影:李纓,堀田泰寛
編集:李纓,大重裕二


さて,第七藝術劇場でレイトショーになってようやく観た問題作。これが,いち映像作品としての評価を超え,世の中を騒がせた顛末について,今さらクドクド書く必要はないでしょう。

ほとんど誰も観ていないうちから,これほどまでに物議を醸した作品も珍しいですが,周囲が必要以上に騒ぎ出すのも「靖国」という題材の特殊性によるもの・・

おかげで,通常なら単館系で,さして注目されるでもなく粛々と上映を終えていたはずの作品が,予想外のヒット作になってしまったのは皮肉ですね。

全国でまっ先に公開を表明した第七藝術劇場は初日から満員札止。上映期間も延長に次ぐ延長で,公開から1か月半たった今も続映中という異常事態(?)。

その後,日本じゅうで続々と上映館が増え,いまや全国ロードショー状態ですから・・

一時は公開自体が危ぶまれたとは思えないほどで,製作者や配給サイドは怒ったり,焦ったり,喜んだり,さぞ忙しかったことでありましょう。

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これは来日20年近い中国人監督が,10年の歳月を費やして取材を重ね,ようやく日の目を見たドキュメンタリーであります。

「映画」としての品質・技術を云々するなら,評価の難しい作品で,一見,そんなに上手く処理されているように思えない。作家自身の日本語力の問題もあり,取材自体がスムーズにいっていない印象もあります。

ただ,荒削りで行き当たりバッタリな撮影と,あえて編集を施さず,長い長いワンショットをそのまま見せる手法は,映像自体の良し悪しは別にして,リアルな真実を伝える空気感を持っています。


映画は,8月15日の終戦記念日に「靖国」に集う人たちの様態を,ただ黙々と撮り続けたシーンと,御年90歳という靖国の御神体・靖国刀づくりの刀匠の取材シーンを併行して見せます。

夏の日,「靖国」に集うのは,肉親を追悼する戦没者遺族,戦争肯定の愛国者,自虐史観を批判する者,そして,靖国に祀られることを拒絶する遺族や反靖国の運動家たち・・ それぞれの思いとその主張。

それをひたすら撮りっ放し状態で,時おり乾いた字幕が入る以外は,説明的表現を排して,野放図にスクリーンに投げつけたといった趣き。

ともかく,延々と長回しで撮ったシーンをそのまま見せることに終始しており,そのキレの悪さに,最初,首をひねりますが,観ているうちに作家の意図が明瞭になってきます。

これは明らかに,フィルムを切ってつなぐことで,作り手の思想に都合の良いシーンだけを見せたような印象を生むことを防いでいる。

この中国人作家は,映画の終盤で,南京大虐殺の(とされる)写真と軍国日本のイメージフィルムをモンタージュでつないでみせるのですが,ここにこの作家の「根」が現れており,そんな自分が編集すると,作品の意図を損なってしまうことも自覚していたのではないかと思います。

全部をそのまま投げ出して見せ,鑑賞者の判断にゆだねたのは,ある意味,作家の卓見であり,自戒でもあったのでしょう。

私自身,今,右左の対立軸とは距離をおいていますが,しかし,本作を観ながら,完全なニュートラルポジションに身を置くことの難しさを思い知らされました。やはり気分が昂揚すると,人間どちらかに肩入れしてしまうもの・・


そして,本作の登場者のうち,もっとも真っ当なのは,数々の戦没者ご遺族の方々。

「靖国で会おう」を合言葉に,戦場に散った父や兄弟や夫を悼むご遺族,かたや国家の侵略戦争に加担させられたことを悔やみ,「靖国」への祭祀を拒絶するご遺族・・

一見対立するかのようなそれぞれの思いは,じつはどちらも「真実」であります。人間の素直な「気持ち」に正解も誤りもないのです。

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「靖国」は宗教的信仰の対象では決してありません。

明治2年創設,140年ほどの歴史しか持たないこの社は,近代国家の富国強兵政策のもとに建てられ,そのもともとの本質は,国家主義的な官僚機構の一部といってよいと思います。

祀られているのは,民俗的信仰にもとづく「神道」本来の神々ではなく,戊辰戦争から大東亜戦争にいたる国家の戦争によって命を落としたおよそ250万柱という「英霊」。

つまり,今ここは,日本の「戦没者墓地」の代替施設でもあるということです。

戦後,いち宗教法人となったはずの「靖国」ですが,遺族の祭祀拒否の申し立てを頑として受け入れません。それを受け入れたとき,戦前の官僚機構の最後の生き残りである「靖国」の存立意義は危うくなる・・


映画の後半,靖国参拝20万人集会なる催しが映され,石原慎太郎や例の保守党議員が壇上にたって,何やら演説するシーンが映されます。

演説が終わり,キャメラが客席へパンすると,その集会は,いまや相当にお年を召された方々ばかり・・

ここで明らかなことは,これから10年~15年ぐらいの間に,日本は,右も左もなく,確実に「戦争を知らない国」になっていくということ。(二度と戦争が起こらないと仮定しての話ですが・・)

そう考えると,「戦没者墓地」であり,純粋な宗教社ではない「靖国」の将来像については想像に難くありません。

つまり,「靖国問題」に切り込む映画を製作・公開するのは,もう今のタイミングしかなかったとも言えるわけです。


上映中止騒動などで,多少ともキワモノ扱いされた感がありますが,おかげで,これが今,多くの日本人の目に触れたことには,それなりの意義があったのだと思います。


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2007年/日本・中国/123分 監督: 李纓 撮影: 堀田泰寛/李纓 編集: 大重裕二 / 李纓 at:第七藝術劇場 「見るのがつらいラブレターかもしれないが、これが私の愛の形だ」 本作について、監督である李纓(リ・イン)は語っている。 本作で李纓監督は一切何も語っていない。 ただ、私たちに靖国神社を舞台にした様々なドラマをカメラは淡々と映し出している。 李纓(リ・イン)監督とスタッフ達の10年に及ぶ取材記録をもとに作られたドキュメンタリー映画「靖国」。 ... [続きを読む]

受信: 2008/07/21 08:31

コメント

久しぶりにきたものですから、あちこちTBしてしまい、ブログ荒らしみたいですみません。
本作は日本人としてみるべき映画!そう痛感しました。「YASUKUNI」の映画感想と、その前に思ったことを綴った記事2つTBさせていただきます。

投稿: シュエット | 2008/07/21 08:34

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