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2008年6月

2008/06/28

『美しき諍い女』 ~長さをそのまま受け入れる映画~

1991年/フランス/237分
監督:ジャック・リヴェット
原作:オノレ・ド・バルザック
脚本:ジャック・リヴェット,パスカル・ボニツェール,クリスティ・ローレン
撮影:ウィリアム・ルプシャンスキー
出演:
ミシェル・ピッコリ(フレンホーフェル)
ジェーン・バーキン(リズ)
エマニュエル・ベアール(マリアンヌ)
マリアンヌ・ドニクール(ジュリエンヌ)
ダヴィッド・バースタイン(ニコラ)
ジル・アルボナ(ポルビュス)


シネ・ヌーヴォで開催されたジャック・リヴェット特集で,ようやく観ることができた“呪われた巨匠”の名編。4時間に渡る長尺作品であります。


この前に,同じ特集上映で観た『嵐が丘』(1985年)が,ハッキリ言ってピンとこない作品で,この調子で4時間やられたら,たまらないな・・ と正直,観ようかどうしようか迷っていました。

しかし,本作に限っては,これは観てよかったと思える一作でした。途中休憩まで入る長尺ながら,その長さがそのまま心地よい,こんな作品はなかなかありません。

もちろん同じような長い作品は,ほかにもありますが,本作が素晴らしいのは,決して大作ではなく,むしろスケールとしては小品の域を出ないこと。

金をふんだんに注ぎ込んだ大スペクタクル巨編が,派手な展開や刺激の強い映像で,時間を忘れさせ間を持たせられるのは,ある意味当たり前。

しかしこの作品は,くたびれた画壇の巨匠とその妻,若いモデルとその周辺人物の夏のひとときの物語。映画の大半は画家の創作過程で占められ,ベアールの見事な裸体はあっても,ほとんどケレンがない。

でありながら,長さを忘れさせるのではなく,その長さのままで「映画的興奮」を持続させる・・とでもいいましょうか。この辺はさすがですね。


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「美しき諍い女」とは17世紀の高級娼婦をモチーフとした絵画。かつて老画家(ピコリ)は,妻(バーキン)をモデルに描きかけながら,ある事情から完成させることができず・・

10年後,友人の画商が,若い画家のわがままな恋人(エマニュエル・ベアール)をモデルに推薦し,老画家は再び「諍い女」に取り組みはじめます。


ともかく,映画の中盤から延々と続くアトリエでの制作シーンが見事。

真白いスケッチブックに墨が落とされ,ペンで引く細い線と,時おり水筆で入れるボカシがしだいにフォルムを形成していくその過程を,延々とワンショットで撮っていて,こんなシーンが目を惹きつけてサスペンシヴであるという経験はなかなかできません。

久々に絵筆をとった画家は,最初のうちなかなか調子が出ないのですが,ザラついた紙の表面をペンがカリカリと掻きむしる音像のいら立ち,ベッタリとした水筆の筆致の不快感・・ それらが,画家とモデルの間に生ずる葛藤と重なって,そこに緊迫感が生まれるといった印象。


画家は初め,モデルに正対して身体や顔をスケッチします。このとき彼が描くベアールの顔は,人間とは思えない無機質な気味の悪い顔。

そのうち,モデルに身体は前を向かせながら,「顔を見せるな!」といって,ソッポを向かせるようになります。

ベアールに関節を無視したような無理なポーズをとらせ,何枚も習作を繰り返しながら「君を解体して,すべてをさらけ出させる!」という画家は,その実,モデルに正対することを躊躇している。本当は妻で描きたかったのだ・・という彼の本心が垣間見えます。


妻のバーキンはベアールに「顔を描きたいと言い出したら,断るのよ」と忠告しますが,結局,その忠告は聞き入れられませんでした。

最初のうち,恋人への当てつけのため,仕方なく画家につき合っていた様子のベアールですが,だんだん本気になり,画家の前で自らを解放していきます。

画家はベアールに「君にも闘ってほしい」といいながら,女のすべてがさらけ出されたとき,自らは逡巡し,背を向けてうずくまるようなポーズの絵ばかり描きます。

ベアールはそんな画家の本心を見抜き,逃げないで,私をしっかり見て描いて,と迫ります。そして,とうとう画家は「美しき諍い女」を完成させますが・・


10年前,画家とその妻が「美しき諍い女」を断念せざるを得なかった事情がしだいに明らかになり,それが,なぜベアールなら描けたのかも,観終わってシミジミとわかります。

芸術を極めること,人間の内奥をつきつめること・・ それが果たして男女・夫婦の幸福と両立し得るのか? 描きたい,しかし真実をカンバスに定着する行為は,あまりにも残酷過ぎる・・

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映像的には,特に序盤の,南フランスの夏の描写が絶品。その明るい外光の取り入れ方,セミの声を重ねて醸しだす空気感が心地よく,観始めてすぐに「これは良い映画だ」と感じました。

その明るい屋外との対照で,中盤から埃くさいアトリエで展開される画家とモデルの閉塞的な葛藤世界が,重くなり過ぎない程度に際立った印象。

役者では,何よりエマニュエル・ベアールが素晴らしくて,女の嫌らしさを垣間見せながら,常に人を惹きつける色香を醸し,画面をかっさらう力がありました。一方のミシェル・ピコリは,アトリエで「仕事」に臨むときの,真摯で透徹した芸術家の眼差しに凄みを感じました。


1991年,カンヌ国際映画祭 審査員特別グランプリ受賞。その名に恥じない名匠ジャック・リヴェット快心の逸品といってよいでしょう


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2008/06/21

『靖国 YASUKUNI』 ~いまなぜ「靖国」なのか?~

2007年/日本・中国/123分
監督:李纓(リ・イン)
製作総指揮:張雲暉,張会軍,胡雲
製作:張会軍,胡雲,蒋選斌,李纓
撮影:李纓,堀田泰寛
編集:李纓,大重裕二


さて,第七藝術劇場でレイトショーになってようやく観た問題作。これが,いち映像作品としての評価を超え,世の中を騒がせた顛末について,今さらクドクド書く必要はないでしょう。

ほとんど誰も観ていないうちから,これほどまでに物議を醸した作品も珍しいですが,周囲が必要以上に騒ぎ出すのも「靖国」という題材の特殊性によるもの・・

おかげで,通常なら単館系で,さして注目されるでもなく粛々と上映を終えていたはずの作品が,予想外のヒット作になってしまったのは皮肉ですね。

全国でまっ先に公開を表明した第七藝術劇場は初日から満員札止。上映期間も延長に次ぐ延長で,公開から1か月半たった今も続映中という異常事態(?)。

その後,日本じゅうで続々と上映館が増え,いまや全国ロードショー状態ですから・・

一時は公開自体が危ぶまれたとは思えないほどで,製作者や配給サイドは怒ったり,焦ったり,喜んだり,さぞ忙しかったことでありましょう。

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これは来日20年近い中国人監督が,10年の歳月を費やして取材を重ね,ようやく日の目を見たドキュメンタリーであります。

「映画」としての品質・技術を云々するなら,評価の難しい作品で,一見,そんなに上手く処理されているように思えない。作家自身の日本語力の問題もあり,取材自体がスムーズにいっていない印象もあります。

ただ,荒削りで行き当たりバッタリな撮影と,あえて編集を施さず,長い長いワンショットをそのまま見せる手法は,映像自体の良し悪しは別にして,リアルな真実を伝える空気感を持っています。


映画は,8月15日の終戦記念日に「靖国」に集う人たちの様態を,ただ黙々と撮り続けたシーンと,御年90歳という靖国の御神体・靖国刀づくりの刀匠の取材シーンを併行して見せます。

夏の日,「靖国」に集うのは,肉親を追悼する戦没者遺族,戦争肯定の愛国者,自虐史観を批判する者,そして,靖国に祀られることを拒絶する遺族や反靖国の運動家たち・・ それぞれの思いとその主張。

それをひたすら撮りっ放し状態で,時おり乾いた字幕が入る以外は,説明的表現を排して,野放図にスクリーンに投げつけたといった趣き。

ともかく,延々と長回しで撮ったシーンをそのまま見せることに終始しており,そのキレの悪さに,最初,首をひねりますが,観ているうちに作家の意図が明瞭になってきます。

これは明らかに,フィルムを切ってつなぐことで,作り手の思想に都合の良いシーンだけを見せたような印象を生むことを防いでいる。

この中国人作家は,映画の終盤で,南京大虐殺の(とされる)写真と軍国日本のイメージフィルムをモンタージュでつないでみせるのですが,ここにこの作家の「根」が現れており,そんな自分が編集すると,作品の意図を損なってしまうことも自覚していたのではないかと思います。

全部をそのまま投げ出して見せ,鑑賞者の判断にゆだねたのは,ある意味,作家の卓見であり,自戒でもあったのでしょう。

私自身,今,右左の対立軸とは距離をおいていますが,しかし,本作を観ながら,完全なニュートラルポジションに身を置くことの難しさを思い知らされました。やはり気分が昂揚すると,人間どちらかに肩入れしてしまうもの・・


そして,本作の登場者のうち,もっとも真っ当なのは,数々の戦没者ご遺族の方々。

「靖国で会おう」を合言葉に,戦場に散った父や兄弟や夫を悼むご遺族,かたや国家の侵略戦争に加担させられたことを悔やみ,「靖国」への祭祀を拒絶するご遺族・・

一見対立するかのようなそれぞれの思いは,じつはどちらも「真実」であります。人間の素直な「気持ち」に正解も誤りもないのです。

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「靖国」は宗教的信仰の対象では決してありません。

明治2年創設,140年ほどの歴史しか持たないこの社は,近代国家の富国強兵政策のもとに建てられ,そのもともとの本質は,国家主義的な官僚機構の一部といってよいと思います。

祀られているのは,民俗的信仰にもとづく「神道」本来の神々ではなく,戊辰戦争から大東亜戦争にいたる国家の戦争によって命を落としたおよそ250万柱という「英霊」。

つまり,今ここは,日本の「戦没者墓地」の代替施設でもあるということです。

戦後,いち宗教法人となったはずの「靖国」ですが,遺族の祭祀拒否の申し立てを頑として受け入れません。それを受け入れたとき,戦前の官僚機構の最後の生き残りである「靖国」の存立意義は危うくなる・・


映画の後半,靖国参拝20万人集会なる催しが映され,石原慎太郎や例の保守党議員が壇上にたって,何やら演説するシーンが映されます。

演説が終わり,キャメラが客席へパンすると,その集会は,いまや相当にお年を召された方々ばかり・・

ここで明らかなことは,これから10年~15年ぐらいの間に,日本は,右も左もなく,確実に「戦争を知らない国」になっていくということ。(二度と戦争が起こらないと仮定しての話ですが・・)

そう考えると,「戦没者墓地」であり,純粋な宗教社ではない「靖国」の将来像については想像に難くありません。

つまり,「靖国問題」に切り込む映画を製作・公開するのは,もう今のタイミングしかなかったとも言えるわけです。


上映中止騒動などで,多少ともキワモノ扱いされた感がありますが,おかげで,これが今,多くの日本人の目に触れたことには,それなりの意義があったのだと思います。


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2008/06/16

3週間ぶりの映画鑑賞 ~やっと!~

ここしばらく公私とも多忙で,休日も時間が取れず,映画館にも足を運べていませんでしたが,この土日は,ほぼ3週間ぶりに映画を2本観ました。

まずは,シネ・ヌーヴォのジャック・リヴェット特集が本格化したので,取りあえず『嵐が丘』(1985年)だけ観てきました。

本当は『美しき諍い女』にしかったのですが,とにかく4時間も映画館にいるような時間が取れないため,来週以降に持ち越し。まあ,来週は来週の風が吹きますが・・


そして,もう1本は,“やっと!”という感じで,第七藝術劇場へ『靖国 YASUKUNI』を観に行きました。

ナナゲイでは,すでに1か月を超えるロングラン上映中ですが,例の騒動のあおりで,公開後から小さな劇場は連日超満員だったらしく,人が多すぎる中での鑑賞が苦手な私は,少し落ち着くのを待っていたのでした。

ようやく,この週末からレイトショー上映(20時35分~22時40分)になったのと,先週から京都シネマでも上映が始まって客が分散しているはず・・と踏んで行ってみたところ,ゆっくり観ることができました。

それでも,日曜のこの種のレイトショーとしては,異例なぐらいの客の入りでしたが・・

しばらくぶりで劇場に行くことができて,ちょっと一段落・・感想はまた近いうちに。


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2008/06/14

いやぁ~映画ってホントにいいもんですね!

先日,水野晴郎さんが亡くなりましたね。享年76歳とか。

「映画評論家」という肩書きですが,この人,もともと配給会社の宣伝マンで,テレビの水曜ロードショー(のち金曜ロードショー)の解説者として,長年お茶の間に親しまれたこともあり・・

不可解な奇説を並べ立てる論者ではないし,「評論家」というより「映画解説者」といったほうがピッタリときます。その映画の伝道師としての功績は,絶大であったと思います。


私が子どもの頃は,テレビの洋画劇場の全盛時代で,昭和40年代初頭に始まった洋画放送番組が徐々に増え,昭和45年前後・・つまり70年代に入るころから,にわかに活況を呈しだしました。

水野さんの水曜ロードショーも70年代初めに始まり,当初はけっこう渋い作品をやっていて,『顔のない眼』なんてのも,たしか水野さんの解説でふるえながら観て,トラウマになった覚えがあります。


そして,あの『風と共に去りぬ』を世界で始めてテレビ放映したのも,じつはこの水曜ロードショー。

このときは2週に渡っての特大放映でしたが,ともかく,「あの『風と共に去りぬ』がついにお茶の間で・・」的な盛り上げ方がスゴクて,番組の冒頭ではスカーレット・オハラ役のオーディションフィルムを延々と流したり,水野さんも興奮を抑えきれない様子でした。

そういえば,この人,最初の頃,なぜかポンチョにメキシコ帽というイデタチで出ていたような・・。私の思い違いかもしれませんが。


この頃の1週間のプログラムといえば・・

日曜夜9時 日曜洋画劇場/解説:淀川長治

月曜夜9時 月曜ロードショー/解説:荻昌弘

水曜夜9時 水曜ロードショー/解説:水野晴郎

金曜夜9時 ゴールデン洋画劇場/解説:高島忠夫

土曜夜9時 土曜映画劇場/解説:増田貴光

大阪在住ですから,テレビ東京系の木曜洋画劇場は観られなかったのですが,それでも火曜と木曜以外は,連日夜9時から映画漬けという日々・・

この時代は,どの番組にも解説者がいて,それぞれの個性で勝負をしていました。


淀川さんはちょっと別格として,この中で「映画評論家」といってピッタリくるのは,早くに亡くなった荻昌弘氏ですね。

穏やかな口調で知見の豊かな人だった印象ですが,けっこう辛らつな評をすることがあり,たしか『人喰いアメーバの恐怖』という作品の解説で,その発想がいかにお粗末であるかを大真面目に語っていたことを思い出します。


水野さんは,どんな映画でも基本的に良いところを誉める,見どころを語る人。テレビの洋画劇場で,『ルパンⅢ世』シリーズなどアニメ作品をかけだしたのは水曜ロードショーが嚆矢だと思いますが,そんなときも特別番組にせず,通常出演していたのは水野さんだけではないかと思います。

でもこの人,関西ローカルの番組では,日本映画に対して,けっこう厳しい発言をしていたこともあります。


土曜の増田貴光氏は,知る人ぞ知る「あの人は今」解説者。ちょっと問題ありで,この人のことは軽々に発言できませんが・・

この土曜映画劇場だけが1時間半枠で,B級作品が多かった印象。今と違って,ホラー映画は低く観られていた頃でしたが,カルトなB級怪奇映画をたくさん見せてくれました。


今,各局の洋画劇場は解説者がいなくなり,どこか味も素っ気もなくなって,私はもうほとんど観なくなってしまいました。

地上波でCMが入り,カット有り・吹き替えでは,DVDや衛星放送で気軽に完全版が観られる今の時代には,どうしても見劣りがして不利。何か工夫が必要だと思いますね。


水野晴郎さんの訃報に接し,幼いころから「映画」を教えてくれたテレビの洋画劇場にノスタルジックな思いを込め,そして何より水野さんに感謝の意を込めて,ご冥福をお祈りいたします。

<黙祷>

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2008/06/07

【芸術とは;その1】言葉を許さない感性

久々に再会しました。千里丘陵は万博記念公園にたたずむ太陽の塔・・

Taiyoto1

こんなに近くで見るのはいつ以来だろう?

万博当時,大阪に住む小学生だった私はこの塔が大好きで,万博会場を訪れるたび,傍から塔を見上げていた記憶があります。

その後,高速を走る車中や,空港に向かうモノレールから遠目に見ることはあっても,こんなに接近するのは,たぶん20年以上ぶり・・

初めてこの塔を目視する人は,見る前に思い描いていたイメージを粉々に打ち砕くそのスケールに仰天するのだそうです。小さな子どもだと,恐がって泣き出すこともあるのだとか。

私も久々に間近で目にして,こんなにデカかったのかと再認識しました。昔より大きくなったような錯覚すらありました。

体高65mというその数値は,東京タワーの333mはおろか,通天閣の100mにすら及びませんが,しかし,そんな理屈とは何の関わりもなく,この実物を目の当たりにしたとき,肌で感じる底知れぬ圧倒的なエネルギー感・・

実際,これほど,写真などで見て思い描くイメージと実物の印象に隔たりのあるものも珍しいでしょう。

人はこれを岡本太郎の「芸術」と呼びます。

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その正体は,70年万博のとき,お祭り広場のテーマ館として建てられた建造物であります。

万博当時は,各国・各企業の巨大パビリオンが林立するなかに,お祭り広場の大屋根を突き破るかのように,ニューッと首を出していました。

太陽の塔自体がパビリオンの一つで,内部には展示がありましたが,たしか1時間か1時間半待ちで入れたので,それほどの人気館ではなかった印象です。

エスカレータで昇りながら,らせん状に置かれた原始生物から,大きな恐竜やマンモス,原始人などを象った展示物を見た記憶があります。

言ってしまえば,これは単なるパビリオンの遺構でしかないのですが,しかし,これだけは,ただのモノという感じがしません。

その異形のフォルム,3つの顔を持ち,大地から生え出した未知の巨大生物であるかのような,タップリとしたボリューム感と生命感・・


例えば,東大寺の大仏やニューヨークの自由の女神は,その建造の目的が明確だし,それらが何を意味するものかは誰もが知っています。

Taiyoto2
しかし,この太陽の塔は,その形象の「意味」を言葉では説明できません。理屈ではとらえようがなく,ただ目に映じるイメージから「感じ取る」ことしか許さない。

製作当時,この塔の意味するところを問われた岡本太郎自身が,「意味なんてあるもんか!」と答えた話は有名。

大人はどうだったか知りませんが,私たち,当時の子どもは,みんなこの太陽の塔が大好きでした。子どもは物事に意味を求めたりしません。ただ純粋に,目に映るそのフォルムから,理屈とは対極にある何かを感じ取っていたのだと思います。

芸術のうちでも,特に「前衛」とされるものは,作家の肉体や精神から,まさに「バクハツ」するがごとく産み落とされるものなのでしょう。そこに「理屈」を求めるのは,もともと理屈に合わない・・


今はのどかな千里の丘に,「人の洪水」を生ぜしめたあの狂熱のイベントから既に38年が過ぎ,スローガンだった「人類の進歩と調和」は,もはや無邪気に信じることができなくなり,未来的だったパビリオンはみな色あせてしまいましたが・・

しかし,この太陽の塔だけは,過去も現在もなく,そして恐らくは未来もなく,ひたすらその異様な形象を,天空に向けて突き立て続けています。その時どき,出会う者たちに,強大なインパクトを与えながら・・

ゲージュツ恐るべし!! 1970年の建立から,ずっとその存在を心の隅に置いてきた者として,まさに感無量と言うべき再会でありました。


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2008/06/01

『ランジェ公爵夫人』感想&ジャック・リヴェット監督特集

いま,大阪・九条のシネ・ヌーヴォでは,ジャック・リヴェットの最近作『ランジェ公爵夫人』が上映されており,引き続き6月には「ジャック・リヴェット監督特集」が催されます。

上映作は80年代以降の6作品で,なかに『美しき諍い女』がプログラムされているので,これは千載一遇のチャンスではないかと思っています。

長すぎる映画が苦手な私は,もともとリヴェット作品は敬遠気味で,特に4時間にナンナンとするこの『美しき・・』には,これまで挑戦する勇気がなかったのですが,これを機会に観ておきたいなと・・

上映作は以下の通りです。

『美しき諍い女』 1991年/237分
『ジャンヌ・ダルク I 戦闘』 1993年/178分
『ジャンヌ・ダルク II 牢獄』 1993年/160分
『地に堕ちた愛』 1983年/125分
『嵐が丘』 1985年/130分
『Mの物語』 2003年/150分

上記作品の上映期間:6月7日~27日 →公式サイトはこちら


では,先週,『ランジェ公爵夫人』を観てきましたので,取りあえず短く感想を・・

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『ランジェ公爵夫人』

2006年/フランス・イタリア/137分


個人的に,ここのところ多忙を極め,何週間も睡眠が足りておらず,疲労がピークに達しており,正直こういう映画はつらかったのですが・・ 


映画の冒頭,ギョーム・ドパルデュー演ずるナポレオン軍の英雄が,かつて愛しながら結ばれず,今は女子修道院の人となった女を捜し求めるシークエンス。

秘密の面会部屋で,鉄格子越しに修道服に身を包んだ女がバーンッと登場するシーンの,そのただならぬ空気感! ここは,なかなか映画的な感興がありました。


ただ,そのあとは,ひたすら過去の恋のさや当てゲームの描写となり,しかも,ナポレオン時代の斜陽貴族のお遊びみたいなユル~い空気が,体調の悪い私には堪えました。

加えて,主演のジャンヌ・バリバールという,もうベテランの域に入った個性的なマスクの女優にどうしても魅力を感じることができず・・ 確かに演技力はあるようですが,孤高の英雄を翻弄する女としてはどこか弱い。

もう,ともかく眠くて眠くて・・ 実際に序盤で寝てしまったのでした。(^^;


しかし,映画の中盤以降,舞踏会の帰りに夫人が誘拐されるあたりから俄然リズムがよくなり,男女の立場が転倒して,映画的にもサスペンシヴになって,一気に目が覚めました。


そして,カタストロフを絵に描いたような結末と,何より,ラストワンショットの「激情」を一気に醒ますクールな終幕が効いていて,さすがに「映画」を心得たつくり方だという印象。


2時間超とはいえ,リヴェット作品としては短めだし,また体調がよいときに観なおしたいなと思う,まずまずの作品でした。


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