『今夜、列車は走る』 ~日本ではできなくなった映画~
2004年/アルゼンチン/110分
監督:ニコラス・トゥオッツォ
脚本:マルコス・ネグリ,ニコラス・トゥオッツォ
撮影:パブロ・デレーチョ
出演:
ダリオ・グランディネッティ(カルロス)
メルセデス・モラーン(スサーナ)
ウリセス・ドゥモント(ブラウリオ)
パブロ・ラゴ(ダニエル)
バンド・ビリャミル(アティリオ)
オスカル・アレグレ(ゴメス)
大阪・十三の第七藝術劇場でしばらく前に観た,珍しいアルゼンチン映画の一作です。
じつはもう4年も前の作品で,何ゆえ今になって配給されたのだか,事情はよく知りませんが,世界各地の映画祭でかなり賞を獲っているようですし,実際に観ても,けっこう佳作であると思いました。
それなのに,私が観たとき,日本での上映館は5館だけで・・ いま公式サイトを見ると7館に増えているようですが,でもまあ,かなりマイナーな扱いなのは確かです。
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本作は,鉄道民営化でリストラされた鉄道員たちの「その後」を描いた作品ですが,何しろ日本のように失業保険や再就職支援など社会的サポートのある国とはまるで違って・・
こういう映画を観ると,今の日本はつくづく幸せな国だなと思わざるを得ないですね。
そういえば,今,日本では鉄道系の労働争議などほとんどありませんが,私が子供の頃は,けっこうストライキがあって,その度に学校が休みになったりしましたっけ。
何より,二十年前,国鉄が分割民営化されてJRになったとき,不採算路線の廃線やリストラが断行されたわけですから,やっぱり他人事ではないのでしょう。
映画のタイトルから,私の好きな鉄道の疾走するシーンが多いのだろうと期待したのですが・・ その期待はものの見事に裏切られ,鉄道が走るシーンは前半にワンシーンあり,あとはラストシーンがあるだけ。
それもそのはず,冒頭からいきなり鉄道路線は廃線になってしまい,労組の代表は自殺してしまうという幕開きなのです。
映画は,元鉄道員5人とその家族の「その後」を同時併行で描いていて,失業したオジサンたちが職探しをしたり,引きこもったり,独り修理工場で抵抗を続けたりといった哀しいエピソードを,ラテン的な明るさに包んで綴っていきます。
表面上の可笑しさ,明るさとの対比で,余計に人生の悲哀を際立たせるといった趣向。
映画の終盤まで5本のレールに分かれていた物語は,ラストのある劇的な事件によって1本のレールに合流し,そこを次世代の若者たちを乗せた列車が貫くように走ります。
八方ふさがりな暗闇の中を,一陣の光がつんざくようなイメージ・・ 最後の最後まで,明確な希望はあえて見せないで,何とか明日へと希望をつなぐような感覚。
映像自体は,どちらかと言うと息苦しい画面構成でスカッとしないので,最後ぐらい,もう少し明るく空気の抜けの良い画面を見せてくれたら,と少し残念な感じはしますが・・
やはり列車は夜に走らせる必要があったのでしょう。これこそが,この作家の象徴志向の表れのように感じました。
私はアルゼンチンの社会情勢などに詳しいわけではありませんが,それにしても理不尽極まりない。今の幸せな(?)日本では,こんな作品はもうできないでしょう。
しかし,日本もかつてはそうだった。過酷な状況に置かれながら,たくさんの人間があがいてもがいて,一つひとつ幸福をつかみ取って来た。それは戦後の日本映画を線で観てくれば,わかること。
「社会派」なんて言うのは口幅ったくてイヤですが,今の日本人(或いは日本映画)が失ってしまった,ある種の「粘り気」を感じさせる1本でした。
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