『にっぽん泥棒物語』 ~第一級の掘り出しモノ~
1965年/東映/117分
監督:山本薩夫
脚本:高岩肇,武田敦
撮影:仲沢半次郎
出演:
三国連太郎
佐久間良子
伊藤雄之助
江原真二郎
緑魔子
市原悦子
北林谷栄
鈴木瑞穂
金子吉延
旧い映画ばかり選んで見続けていると,思わぬところで,貴重な拾いモノをすることがあります。
映画史の狭間に埋もれて,ほとんど日の目を見ない作品たち・・ そんな作品を時おり劇場にかけてくれる目利きがいて,観る側は,それをしっかり受け止められるかどうか・・
拠りどころは,自分なりの勘しかありません。このあたりが,クラシック映画ファンであることの醍醐味の一つともいえるでしょう。
今回「山本薩夫監督特集」で観たこの珍妙なタイトルも,あまり知られていない喜劇映画ですが,ふつうのコメディとは違って,山本作品らしく,しっかりと骨のある逸品。
喜劇のため一段低く見られたのかもしれませんが,こんな素晴らしい作品が,ほとんど語られることもなく埋もれてしまっているのは,真にモッタイない。
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本作は,戦後史の汚点として悪名高い「松川事件」を下敷きに,当時,弁護側の証人として証言台に立った実在の人物(泥棒)をモデルに構成されたフィクション。
大泥棒の破天荒な人生描写を横糸に,権力によって仕組まれた冤罪事件の成り行きを縦糸に,エンタテインメントの要素を存分に盛り込んで,人間喜劇に仕立て上げたといったところ。
主人公(三國連太郎)は,田舎で歯科医を装いながら,裏の顔は,その筋では名の通った大泥棒という設定。ただ,ふつうの泥棒とはちがって,商家や金持ち狙いの破蔵師(いわゆる土蔵破り)なのです。
ある夜,土蔵破りをしくじった帰り道,主人公は,鉄道の線路上で屈強な9人の男たちと出くわし,その夜に列車転覆事故が起こります。
そして,お縄になって収監された刑務所で,主人公は列車転覆事件の容疑者と目される労働組合の幹部たちと知り合いますが・・ 自分が目撃した男たちとは明らかに違う。
時は流れ,妻子を得て,今やひとかどの人物と目されている主人公は,過去をネタに刑事に脅され,列車事件の弁護側証人となることを拒絶します。
しかし,かつて刑務所で知り合った組合のリーダーに再開。彼とその健気な息子が,冤罪で10年を棒に振りながらも,真実が明らかになる日を信じて闘う姿に心動かされ,ついに主人公は,何もかも投げ打って証言台に立つ決心をします。
この場面がじつに感動的で素晴らしい。三國連太郎が上手いのは言うまでもありませんが,こういう社会派映画では「顔役」の鈴木瑞穂と,われわれ世代には懐かしい子役の金子吉延(青影)が泣かせる・・
そして,クライマックスの法廷シーンはまさに出色。権力のデタラメや理不尽を真正面から暴きたて,笑い飛ばすそのセンス。三國連太郎の快演に大笑いしながら,最後は言葉では表現のしようのないカタルシスにはまります。
異色ではありますが,法廷シーンとしては,日本映画史上屈指ではないかと思いました。
山本薩夫は,この数年前にシリアスな実録モノとして『松川事件』を撮っていますが,そのとき,まだ事件は公判中で,被告20名の無罪判決も出ていなかったのでした。そして,無罪(冤罪)確定後に,同じ題材を,視点を変えて斬り直したといったところ。
澱みなく密度の濃い演出に,動的なキャメラワーク,映像をテンポよくつなぐリズム感,役者の力量の高さと,脚本の面白さ,どれを取っても一級品。
こんな映画をスクリーンで観られてよかった,クラシック映画ファンでよかったと思うやしきりであります。
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