『ユナイテッド93』 ~あの日を心に刻むプロジェクト~
2006年 アメリカ
監督:ポール・グリーングラス
製作総指揮:ライザ・チェイシン,デブラ・ヘイワード
脚本:ポール・グリーングラス
撮影:バリー・アクロイド
出演:多くの名もない役者さんたち
あの「9.11」テロからもう5年が経つんですね。
この秋,あのいまわしい事件に材を取った作品が2本公開されています。そのうちの1本を今回,高槻松竹セントラルで鑑賞しました。
もう1本の『ワールド・トレード・センター』がオリバー・ストーン演出,ニコラス・ケイジ主演というお定まりのハリウッド・パターンであるのに対し,こちらはかなり趣きが違って,スター俳優の出演一切なし,綿密な取材と当時の関係者や被害者遺族にまで協力を仰いだプロジェクト型の作品です。
「ユナイテッド93便」というのは,あの日,テロリストにハイジャックされた4機のうち,ついにテロの標的に到達することがなかった「最後の1機」。
本作は,あくまでもこのユナイテッド93便に焦点を当て,マスコミ的に注目された世界貿易センターやペンタゴンの惨事については,あえて客観の立場を取っています。
全体に再現映像風のタッチを貫き,手持ち移動撮影による荒々しく動的なキャメラワークがドキュメンタルな空気感を醸しだしています。
同時に演出が過剰になりすぎるのを避け,アメリカ映画には珍しいぐらい淡々と真実を突きつめようとする姿勢が感じられます。
中盤までは,ユナイテッド93便がハイジャックされるまでの一部始終を描きながら,同時並行的に,先にハイジャックされた3つの便を追う各地の航空管制センターと連邦航空局,そして軍の防空指令センターの動向が目まぐるしく切り替わります。
テレビのERシリーズに輪をかけたような忙しいシーン割りで,荒々しく緊迫した空気を演出し,また,航空管制官や軍関係者の幾人かは,当事者が本人役で出演しているとのことで,かなり真に迫るシーンの連続でした。
全編を通して感じたことは,アメリカという軍事大国のテロリズムに対する意外なほどの無防備さ,そして巨大国家ゆえの急な舵取りの難しさ。
じっくり構えて宣戦布告するような戦争とは違って,ランダムに単発的に繰り返されるテロに対し,政府や軍中枢部の対応はつねに後手にまわって,手も足も出ない。
最初に世界貿易センター北棟に1機が突っ込んだ際には,情報ソースをCNNのニュースに頼っている始末。
防空センターの指令官が,ワシントンを防衛するため,民間機の追撃許可を誰か出すのかを問うたのに対し,国防省から副大統領,大統領とたらい回しにされ,結局,誰が決定するのかすら決まらない。
連邦航空局では,全米を飛行中の4500機もの国内便から,交信の途切れた怪しい機を洗い出そうとしますが,もはや手の下しようがありません。
ここに,当時,連邦航空局顧問だったベン・スライニー氏が本人役で出演しており,混乱を鎮めるため,ついに自らの権限を持って,全米を飛行中の4500機すべてに着陸命令を発し,国外からの航空機の侵入を全面禁止。
このスライニー氏の決断シーンは,当日の自身の行動をトレースしたものでもあり,単なる演技を越えた迫真性が感じられました。
終盤はユナイテッド93便におけるハイジャック犯と乗客のにらみ合いに焦点をしぼります。
乗客たちは機内から家族に電話をかけ,おのおの覚悟を決め,団結してテロリストの手から93便を奪い返そうとします。
対するテロリストたちも,ただ凶暴な異教徒としてではなく,命を賭した使命に狼狽し,乗客の反乱に怯える「人間」として描かれています。
配給元のサイトや広告では,テロを知った乗客が命を投げ打って惨事を防いだかのような解釈がされていますが,実際に描かれているのはそんなことではなく,最期の最期まで生きることをあきらめず,団結してテロに立ち向かった乗客たちの姿をありのままに描いたといった趣き。
過剰に英雄視することを避けた,実にわきまえたつくり方であり,そこがこの作品の生命線でもあると思うのです。
観終わってまず感じたことは,よくこれができたなということ。
私は冒頭に「もう5年」と書きましたが,ご遺族・関係者の方々にとってはまだ「わずか5年」。きっと記憶もまだ生々しく,作品の製作にあたっては,大変な勇気と努力が必要だったことでしょう。
アメリカ映画人と当事者諸氏がプライドをかけて紡ぎ上げたこの一篇の作品に,極東の一映画ファンとして,心より敬意を表したいと思います。
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受信: 2006/10/22 12:48

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