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2006/04/04

モノクロ克服映画セレクト15+1

さてさて,今日はしばらく前から書き溜めていた記事を1本上げたいと思います。


ここしばらく,映画ファンの間で,モノクロ映画を敬遠する方が増えつつあるようで,ずっと気になっていました。(気のせいかも知れませんが…)

「モノクロだ」というだけで反射的に遠ざけてしまわれるらしく,スタンダードな作品もなかなか観ておられなくて,これはとてもモッタイナイと思うんですね。(よけいなお世話ですが…)


思えば私の世代は,物心ついた頃にはまだテレビ放送の大半が白黒で,幼い時分から,陰影だけの映像を観て,自分のイメージで色を感じる訓練を知らず積んできたのでした。

しかし,ほぼすべてがカラーという時代に育ってこられた今の若い方は,(もちろん,人にもよりましょうが)色の刺激のない映像には感興がわかないし,退屈ですぐ眠くなるし…,ということが多いようです。


そこで,これからクラシック映画に触れてみたいという若い人向けに,色がなくても(むしろ色がないからこそ)その素晴らしさが伝わる作品を選んでご紹介しましょう,という誠にセンエツな試みであります。


何せ,すべての「映画」の原点はモノクロ時代にあり,あらゆる技法やパターンはこの時代に確立され,今の作品は,その膨大な遺産の上にパロディとして存在するといっても過言ではないのです。

モノクロームの名品に触れることで,苦手意識を解消され,少しでも映画の世界が豊かになることを希望してやみません。


■■取りあえず選んでみた15本■■

○いわゆるゲージュツ映画は最初から外して,できるだけ理屈ぬきで楽しめる古典的名作を,年代順に並べてみました。

○個人的に苦手な西部劇とミュージカルと戦争映画は入っていません(スミマセン)。

<オススメ度>
作品そのものの評価ではなく,入りやすい順番ていどです。
 ★★★★:文句なくオススメ
  ★★★:観て損はなし
   ★★:少しモノクロ慣れしてからがいいかも



1) 『チャップリンの黄金狂時代』 (1925年/アメリカ) ★★★
監督:チャールズ・チャップリン
出演:チャールズ・チャップリン,ジョージア・ヘイル
<ちょっとコメント>
チャップリン映画としてはまずこれが基本かなと。サイレントですが,今観られるのは音響版だと思います。いまだにテレビのコントなどで本作のシーンがパロディで登場する名作中の名作。のちのチャップリン作品みたいに独善的な教訓や涙の押し付けをしない分,理屈ぬきに楽しめます。


2) 『巴里祭』 (1932年/フランス) ★★
監督:ルネ・クレール 
出演:アナベラ,ジョルジュ・リゴー
<ちょっとコメント>
ここにルネ・クレールを入れるのはちょっと冒険かもしれないのですが,きっとハマる人はハマるでしょう。フランス革命記念日を日本でだけ「パリ祭」というのはこの映画の邦題のせい。観終わってそこはかとない幸福感に包まれる,トーキー初期のいかにもクレール的な陶酔感に満ちたフランス映画らしい名品。


3) 『或る夜の出来事』 (1934年/アメリカ) ★★★★
監督:フランク・キャプラ 
出演:クローデット・コルベール,クラーク・ゲーブル
<ちょっとコメント>
スクリューボール・コメディといえば,ひねったギャグや会話のかけ合いのリズムで笑わせるのが主流。その分は英語のセンスを要求されるのがツライところ。しかし,キャプラのスクリューボールはわかりやすくて,字幕に頼っていても十分楽しめます。コルベールが喜劇的センスを存分に発揮。ゲーブルがまだ若く,気概のある男っぷりも魅力的。


4) 『海外特派員』 (1940/アメリカ) ★★★
監督:アルフレッド・ヒッチコック
主演:ジョエル・マクリー,ラレイン・デイ,ハーバート・マーシャル
<ちょっとコメント>
う~ん,迷いました。ヒッチコックから何を選ぶか…。ふつうなら『レベッカ』やら『サイコ』やらになるのでしょうが…。でも,独立プロ(ウォルター・ウェンジャーP)で撮られた本作は,配役もややB級ながら,スパイ映画らしいテンポ感がよく,舞台もヴァラエティに富んでいて,ワクワク・ドキドキの連続でサスペンス満載。何といってもクライマックスの墜落シーンは必見。


5) 『心の旅路』 (1942年/アメリカ) ★★★
監督:マーヴィン・ルロイ
出演: ロナルド・コールマン,グリア・ガースン
<ちょっとコメント>
マーヴィン・ルロイからは本当は『哀愁』(1940年)にしようと思っていたんですが,文字通り哀しい『哀愁』に対して,こちらの方は結末が幸福なのと,映画の構成自体もなかなか凝っているので。古典的なメロドラマで,よくある記憶喪失モノなんですが,グリア・ガースンが健気で美しく気品があってよい感じなのです。


6) 『カサブランカ』 (1942年/アメリカ) ★★★★
監督:マイケル・カーティス
主演:ハンフリー・ボガート,イングリッド・バーグマン
<ちょっとコメント>
「今さら」と思われる方も多いでしょうが,まあお約束の1本ですから。(^^; 戦中の対独プロパガンダ映画でありながら,ボギーが最高にカッコよく,バーグマンも例外的なほど美しくて,伝説的な名作になってしまった1本。いまだ日本中に「カサブランカ」という名のバーやレストランが無数にあるのを思えば,1本の映画の影響力や恐るべし。


7) 『第三の男』 (1949年/イギリス) ★★★★
監督:キャロル・リード
主演:ジョセフ・コットン,オーソン・ウェルズ,アリダ・ヴァリ
<ちょっとコメント>
光と影によるモノクロ映像表現の頂点を行くサスペンス映画の金字塔!なんて決まり文句でよく語られますが,サスペンスですから肩の力を抜いてリラックスして楽しめます。窓明かりに照らされる男の顔,大観覧車での再開,地下水道での追跡,墓地の並木道のすれ違い等々,これぞモノクロ映画の醍醐味ともいえる名シーンのオンパレード。チターの名曲とともに忘れられない名編です。


8) 『陽のあたる場所 (1951年/アメリカ) ★★★
監督:ジョージ・スティーブンス
出演:モンゴメリー・クリフト,エリザベス・テイラー,シェリー・ウィンタース
<ちょっとコメント>
これは怖い映画です。何といっても嫉妬に狂うS・ウィンタースの陰惨なほどの暗さ,対する深窓の令嬢E・テーラーの夢のような美しさ。その残酷な対比が絶望と恐怖を盛り上げ,強烈なサスペンスを生みます。M・クリフトの演技力も冴え,ハッピー・エンドじゃありませんが,これもある意味アメリカ映画らしい,必見の1本。


9) 『恐怖の報酬』 (1953年/フランス) ★★★★
監督:アンリ=ジョルジュ・クルーゾー
出演:イヴ・モンタン,シャルル・ヴァネル
<ちょっとコメント>
時おりフランス映画からこういうのが出るんですね。ニトログリセリンを積んだトラックを油田の火災現場に運ぶ男たち。その壮絶なドラマを,当時ハリウッドではできなかった(に違いない)赤裸々かつ残酷な描写でつづります。かなりの長尺ですが,息詰まるようなスリルとサスペンスで押し切ってしまうパワーは特筆モノ。着色版もありますが,やはりモノクロ版がオススメ。


10) 『道』 (1954年/イタリア) ★★
監督:フェデリコ・フェリーニ
出演:アンソニー・クイン,ジュリエッタ・マシーナ
<ちょっとコメント>
フェリーニ初期の哀感あふれるロードムーヴィーの名編ですね。野卑な芸人に売り飛ばされた知的障害者の女の哀しい運命。ネオリアリズモの名残を感じさせながら,実はリアリズムなんてどうでもいいフェリーニらしい猥雑な感覚が魅力。ラストのシークエンスは運命の悲壮を越えて感動的。J・マッシーナの名演が光ります。


11) 『汚れなき悪戯』 (1955年/スペイン) ★★
監督:ラディスラオ・バホダ
出演:パブリート・カルヴォ,ラファエル・リベリュス,フェルナンド・レイ
<ちょっとコメント>
クレマンの『禁じられた遊び』を外して,あえてこちらを選んでみました。修道院で育つ孤児マルセリーノとキリストの奇跡の交流。個性あふれる修道僧たちも魅力的。ラストは日本人との宗教観の違いに戸惑いを覚えつつも,気持ちよく涙できます。実はフェルナンド・レイが出ていたのを最近知りました。


12) 『十二人の怒れる男』 (1957年/アメリカ) ★★★★
監督:シドニー・ルメット
出演:ヘンリー・フォンダ,リー・J・コッブ
<ちょっとコメント>
殺人の罪に問われた少年の判決をめぐって対立する陪審員たちの葛藤のドラマ。法廷劇の一種だと思いますが,物語のほとんどは陪審員室で進行する密室劇です。互いに名も知らない同士が,あかの他人の運命を手中にするというその理不尽さ。そこからくる息の詰まるような緊迫感。そしてラストの何ともいえない開放感が秀逸。


13) 『情婦』 (1957年/アメリカ) ★★★
監督:ビリー・ワイルダー
出演:タイロン・パワー,マレーネ・ディートリッヒ,チャールズ・ロートン
<ちょっとコメント>
かのアガサ・クリスティ原作による二転・三転の法廷推理ドラマですが,こんなに面白いミステリー映画は滅多にあるものではありません。名匠ワイルダーの面目躍如といったところ。ディートリッヒはさすがの貫禄,ロートンの重厚かつユーモアあふれる名演も見もの。意外な結末にしばし陶酔。


14) 『死刑台のエレベーター』 (1957年/フランス) ★★★
監督:ルイ・マル
出演:モーリス・ロネ,ジャンヌ・モロー
<ちょっとコメント>
ヌーヴェル・ヴァーグがブレイクする前夜,気鋭の新人ルイ・マルが放った犯罪サスペンスの快作。冒頭,電話をかけるJ・モローのクローズアップに始まり,観る者をグイグイと引き込む斬新な映像感覚に目を見張ります。ヌーヴェル・ヴァーグ的とはいっても,ゴダール作品なんかとは違ってふつうに楽しめるサスペンス映画です。


15) 『アパートの鍵貸します』 (1960年/アメリカ) ★★★
監督:ビリー・ワイルダー
出演:ジャック・レモン,シャーリー・マクレーン
<ちょっとコメント>
ワイルダーが2本になるので迷いましたが,『情婦』とはカテゴリーの異なる艶笑コメディだし,いいですよね。何の取り柄もないサラリーマンが,出世のため上司の浮気に自分のアパートを貸すというヘンなお話。J・レモンもいいのですが,S・マクレーンがこの映画でだけは例外的なほど色気があってチャーミングで,まるで別人のよう。


■番外編■

『ペーパー・ムーン』 (1973年/アメリカ) ★★★★
監督:ピーター・ボグダノヴィッチ
出演: ライアン・オニール,テイタム・オニール
<ちょっとコメント>
70年代にわざとモノクロで撮られた作品なので,番外編としましたが,今の映画と変わらない感覚で観られるので楽だと思います。オニール親子が息のあった演技を見せるロードムーヴィーで,特にテイタムは利口でこましゃくれた,でも健気な少女をナチュラルに演じて力があります。ラストの一言で笑いと涙が同時にあふれ出す,しばし心温まる名編です。


どうも長くなりすぎましたね。すみません。

あとがきは,また後日に回して,取りあえず本日はこれにて。

<あとがきはコチラ>


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コメント

オカピーさま
どうもコメントとTBいただきありがとうございます。こちらからもTBさせていただきました。
『街の灯』は特にラストシーンが素晴らしいですよね。あのシーンについて「残酷だ」とかいろいろ理屈をこねたがる人もいますが,私は素直にハッピーエンドでいいと思うのです。おっしゃるように『黄金狂時代』より一般受けするかもしれないですね。

じつは『A.I.』をまだ観ていないのですが,『汚れなき悪戯』は主題曲も印象深くて私の好きな1本です。リメイク版の『マルセリーノ・パーネ・ヴィーノ』は今ひとつでしたが。

それにしても『カサブランカ』が歴代脚本No.1とは,いかにもアメリカらしくてわかりやすいですね(^^。 「君の瞳に乾杯」はじめ台詞が粋でカッコいいの選ばれたのでしょうか。私も通俗ドラマだと思いますが,ボガート以外がヨーロッパの名優ばかりで,脇が結構すごい配役だったりするのも映画ファンには嬉しいところかもしれません。

投稿: ジューベ | 2006/04/12 00:13

関連作品ということで、「黄金狂時代」をTBさせて戴きました。
ただ、古い映画を見慣れない人には「街の灯」のほうが大衆的でふさわしい気がしないでもないですね。

選択された16作品のうち、半数はマイ・フェイヴァリット100に入っていますし、それ以外も傑作中の傑作ばかり。「汚れなき悪戯」はスピルバーグの「A.I.」を観る時に参考になる作品だと思いますよ。

「カサブランカ」がアメリカ映画の歴代脚本No.1に選ばれましたが、実は余り大したことはないと思っています。お話全体はどちらかと言えば通俗的。台詞は抜群ですけどね。しかし、その<どちらかと言えば通俗的>が遍く高い評価に繋がっていることも理解しています。
マイケル・カーティスの演出も中の上くらいで、役者の魅力でカバーしているのが実態。
大好きな映画ですが、厳密に言えば、抜群とは言い切れないと思うのです。

投稿: オカピー | 2006/04/11 15:01

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