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2005/07/24

『サマリア』 ~その即興性とテーマ性~

2004年 韓国
監督: キム・ギドク
脚本: キム・ギドク
撮影: ソン・サンジェ
編集: キム・ギドク
 
出演:
クァク・チミン(ヨジン)
ハン・ヨルム〔ソ・ミンジョン〕(チェヨン)
イ・オル(ヨジンの父親)

キム・ギドクの作品はこれまでに『春夏秋冬そして春』しか観ていなくて,これが2作目ですが,この2本だけでも,かなり即興的で絵画的な画作りをする作家だなと感じました。

この人は事前に作るスクリプト(脚本)をあまり重視しない傾向があるようです。

『春夏秋冬…』は,人生のダイジェスト版みたいな映画で,舞台が固定化され,ストーリーらしいストーリーもないので,詳細なスクリプトがなくても,現場で即興的に作っていけただろうと想像できます。

それに比べると,この作品は一応ストーリーがあり,テーマ性も明確なのですが,それでも即興性の強いイメージが脳裏に焼きつきます。

例えば,少女二人が銭湯で向かい合って洗いあうシーン。ちょっとアブナイ感じのする演出。

川原で遺体にヘッドフォンをかけて土に埋め,目覚めの音楽を聴かせる奇妙なシーン。

そして,川原の石をパステルカラーで着色して教習レーンに見立てるシーン。『春夏秋冬…』の般若心経を彫って着色する場面を思い出します。

いずれも,現場に行ってから急に閃いて,スクリプトを変更して撮ったみたいな感じですが,ストーリーテリングとしての必然性よりも,思い描くイメージのインパクトを重視する傾向が見て取れます。

観ているほうは,時折,意表を衝かれますが,全体としてはまとまっているので,流れがせき止められる感覚はほとんどないですね。

首をひねったのは,父親が少女を田舎に連れ出した帰りの山道で,車が側壁にあたって前に進まなくなるシーン。撮影中のハプニングをそのまま利用したのではないかという感じで,こういうのを入れると,映像のつながりが散漫になりがちですが,まあラストシーンの伏線にはなったのかも知れません。

今回の作品は,テーマ性に関しては割りと明確ですね。

物語は,少女たちの売春行為によって起こる悲劇ですが,キム・ギドクは,道徳観の啓蒙や社会的告発などを目的にしたのではなくて,いつの世も「個人」と「社会」との間に生じるひずみ,人間の赤裸々な本性と社会通念のミゾみたいなものを描き出したかったのではないかと感じました。

女子高生ヨジンは,最初,親友の売春行為を手助けしながら毛嫌いしていますが,友の死によって彼女の中で何かが変化し,過去の売春相手を探しては,友の行為をトレースしていくことになります。

ただ,それは売春ではなく,身体を与えながら罪滅ぼしのように金を返して回るんですね。

あるオジサンは,少女に身体を与えられ,生きる歓びを得ている。少女も歓びを与えることで幸福感を得ている。世界に2人だけならどちらも幸せで問題はない。

個人と個人の関係だけで見たとき,それは人間のもっとも原初的な欲求に素直に従った行いであるともいえます。

しかし,「社会」のなかで生きる以上,一線を越えたときには何かを破壊することになります。それは社会の最小単位である「家族」の崩壊という形で明確になっていきます。

一家だんらんの食卓にいきなり正体不明な男が現れ,家の主の顔を,家族の見ている前で何度も打つ。羞恥の極,そして突然訪れる崩壊の悲劇。身の毛もよだつ修羅場のイメージ。

娘の行為を知った父親は怒りにかられ,それは相手の男たちに向けられ,しだいにエスカレートして,ついには…。

少女の原初的な本性に従った行いは,しかし「社会」には受け入れられず,平穏だった「日常」の崩壊につながっていきます。

一方で,血の通った個人に焦点を当て,それぞれの思いを明瞭に描き出すことで,人間という実に不完全な存在に対して「体温」のある眼差しが感じられます。

ラストは少女の危なっかしい運転シーン。雨水の溜まったデコボコ道で車は動かなくなります。まだ未熟で頼りない子供であることを気づかせ,映画は幕を閉じます。

少女役のクァク・チミンは,制服を着ていると本当の女子高生のように見えますが,男とベッドを共にするシーンではゾクッとするほど色香に満ちて,まるで別人のようです。先の銭湯のシーンもふくめて,キム・ギドクは「女の性」の描出にはけっこう拘りますね。

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コメント

オカピーさま
どうも,いつもありがとうございます。
TBが反映されなかったとのことですが,管理画面には受信履歴がなく,原因がよくわかりませんでした。すみません。ニフティのシステムがこのところどうも不安定なようで,ひょっとして何かシステム上のエラーではないかと推察されますが・・。
ちなみにTBやコメントについて保留設定にはしておらず,私のほうはアダルト以外は千客万来ですので。(^^

さて,この作品は私も印象に残っている1本で,キム・ギドクの何も批判せず,個人と社会を対等に見る感覚が新鮮でした。
売春行為を正当化するつもりは毛頭ないのですが,社会道徳に裁かれる式の展開だとやっぱり野暮な作品になってしまうのでしょうね。

投稿: ジューベ | 2006/04/27 23:40

TBしてみましたが、反映されません。保留処置されていますか。最近そういう対応する方が増えていますね。これだけスパムが多いと「どうしても」ということでしょう。私はまめにスパムが入らないように対応していたら、すり抜けて入ってくるものはほぼなくなりました。

さて本論ですが、「春夏秋冬そして春」に続いてギドクさん、なかなかやりますね。
社会と個人の関係については全く仰るとおりで、私もほぼ同じ主旨のことを書きました。ちょっと似すぎ?
バスミルダの時代では男たちは幸せになれただけで終ったのかもしれませんが、社会のうるさい現在ではそう簡単には終らない、といったのが「サマリア」の章でしょうね。
最後の車は<大人社会>の象徴ですね。しかも彼女はそれを一人で乗りこなさなくてはならない。大変です。

投稿: オカピー | 2006/04/27 00:36

kimion20002000さま
コメントどうもありがとうございます。
キム・ギドクという人は見かけによらず繊細で鋭い美術的感性を持っているようですね。
『春夏秋冬そして春』では,自分で武術稽古なんか演って見せて,イカツい感じでしたが。

投稿: ジューベ | 2005/12/07 01:32

TBありがとう。
美術的感性が強い監督ですから、「現場」インスピレーションは結構、あるかも。

少女たちの「銭湯」の体を洗うシーン。どんなポルノグラフィーよりも、僕には、焼きつきましたね。

投稿: kimion20002000 | 2005/12/06 01:05

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